子どもの咳に、はちみつが効く!?という話
※この話をする前に、最初に断っておきたいのは、はちみつは1歳未満の乳児にはあげないでください!!まだ腸の機能が未熟なので、乳児ボツリヌス症になってしまう可能性があります。乳児ボツリヌス症ははちみつの中でも生きられてしまうボツリヌス菌が出す毒素によって、便秘から始まりあらゆる筋肉の筋力低下を起こします。呼吸も弱くしてしまうため、乳児ボツリヌス症患者の半分は人工呼吸が必要となり、死にいたる方もいます。はちみつを試すのは1歳になってからにしてください!
咳で病院やクリニックに受診するお子様は数多くいます。小児科医として診療をしていると、咳がひどい子を持つお母さんお父さんに「咳止めもらえませんか?」と言われることがあります。薬は効果と副作用のバランスを常に考える必要があります。このバランスを考えると、「咳止め」の薬にはお勧めできるものはありません。
「咳止め」には大きく分けて麻薬性(リン酸コデインなど)と非麻薬性(チペピジン、デキストロメトルファンなど)の2つがあります。
麻薬性であるリン酸コデインは成人に処方されることがあり、薬局にある風邪薬の「ルル」や「パブロン」、「アネトン」などにも含まれているもの(入っていないものもあります)ですが、小児には処方されない薬です。リン酸コデインは1997年の研究で、成人の咳に対してプラセボ(偽薬)と比べて有効性が見られないと報告されました。小児の研究もありますが、同じ様な結果です。それどころか、麻薬なので嘔吐、ふらつき、めまいなどの副作用が強く出ることが多く、死亡例が相次いだ影響を受けて2017年にアメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局;Food and Drug Administration)は12歳未満の小児への処方を禁止しています。
非麻薬性のデキストロメトルファンは「メジコン」という名前で処方されます。はちみつ、はちみつ風味のデキストロメトルファン、無治療で比較した研究では最も咳に対して有効であったのははちみつで、デキストロメトルファンは偽薬と比較しても有効性が見られなかったとの結果となっています。同じような結果の研究は多くあり、さらに嘔吐などの副作用が比較的出やすいため処方は避けるべきだと思います。
もう一つの非麻薬性であるチペピジンは「アスベリン」という名前で処方される医薬品で、お子さんの風邪で受診された時に処方されたことがある方も多いと思います。チペピジンは1959年(64年前!)から日本で処方されている薬ですが、おそらく日本と僅かなアジアの国でしか処方されていないと思われます。おそらく、というのはほとんどチペピジンに関する研究報告がないからです。デキストロメトルファンより安全性が高い(?)という理由で多く出されているとのことですが、副作用に関する報告が数件あるだけで、人に対する研究がされていないというのが現状の様です。副作用に関する報告の一つは自分の元上司が監修していたものでした。チペピジンは難治性うつ病、ADHD、強迫性障害などの病気への効果が研究されているところです。明確な根拠がある訳ではないのですが、脳の一部の働きに効果を示すというくらいなので、とても安全な薬といえる訳ではなさそうです。
さて、本題の子どもの咳に、はちみつが効く!?という話です。その前に、大前提として大事なことなので冒頭で話したことを繰り返しますが、1歳未満にははちみつを与えないでください!!
アメリカで行われたデキストロメトルファンについての説明に出てきた研究以外にもイスラエルで行われた研究やイタリアで行われた研究でも咳に対するはちみつの有効性が示されています。
コクランという、健康に関する疑問に対して今までの多くの論文を吟味して科学的な証拠を見つけ出すという機関があります。そこでも咳に対するはちみつの有効性について研究されています。その名も「Honey for acute cough in children」!! 1歳〜18歳の小児の急性の咳に対して、はちみつは無治療、プラセボ、ジフェンヒドラミン(アレルギーの薬;抗ヒスタミン薬)、デキストロメトルファンを比較したときに、無治療、プラセボ、ジフェンヒドラミンと比べると咳の頻度を改善して、デキストロメトルファンと同等という結果が出ています。
これらの研究データの蓄積があり、世界保健機関(WHO)でも咳に対してはちみつを推奨する報告が出ています。
はちみつの投与量は研究によってまちまちですが、目安として2-5歳は小さじ半分(2.5ml)、6-11歳は小さじ1杯(5ml)、12-18歳は小さじ2杯(10ml)としているアメリカの研究がわかりやすいかと思います。咳が起きたら1回だけ投与する研究もあるのですが、1日3回投与している研究もあります。投与日数に関しては、3日を超えるとあまり意味がないみたいなので、1日3回を3日間というのを自分は勧めています。
一つ追加すると、もう一つよく処方される薬である去痰薬のカルボシステイン(商品名:ムコダイン)の有効性は微妙なものであります。先ほど説明したコクランの研究があるのですが、プラセボに比べて少し咳が改善するという研究があったり、変わらないという結果の研究があったり。それほど害はなく安全性はまずまずの薬なので、もし処方するとしたらカルボシステインですが、2歳未満では痰を減らすどころか増やす報告もあり、本当に微妙なところです。
結局何が言いたいかというと、効果と副作用のバランスを考えると咳に対して出せる薬はほとんどありません、というかありません。はちみつは、安価で、1歳以上であれば安全性も高い食品ですが咳に対する効果はそこそこあります。自分は「咳止め」を処方希望のお母さんお父さんに、処方をする前にはちみつも含めたお話をしてから、一緒に治療方針を決めていきます。
余談?ですが、上記のコクランの研究でもケニア産のはちみつが他のはちみつよりも咳の頻度と重症度をより減少させたと記載があります。残念ながらケニア産のはちみつは簡単に手に入らなさそうですが、それ以外のはちみつをご希望の方は下のリンクからどうぞ!
少しでもこの話がお子様を持つご家庭の参考になれば嬉しいです。
それではまた🍯
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